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2025.10.08

事業承継・引継ぎ補助金完全ガイド|M&Aから事業承継まで徹底解説

事業承継・引継ぎ補助金完全ガイド|M&Aから事業承継まで徹底解説

事業承継・引継ぎ補助金で円滑な事業承継を実現|申請から活用まで完全ガイド

日本の中小企業において、経営者の高齢化が進み、事業承継は喫緊の課題となっています。優れた技術やノウハウを持つ企業であっても、後継者不在により廃業を余儀なくされるケースが増加しており、地域経済や雇用への影響が懸念されています。このような状況を打開するため、国は「事業承継・引継ぎ補助金」という制度を設けて、中小企業の円滑な事業承継を支援しています。

本記事では、事業承継・引継ぎ補助金について、制度の概要から申請要件、具体的な申請手順、採択率を高めるポイント、そして実際の活用事例まで、包括的に解説します。親族内承継、従業員承継、M&Aによる第三者承継など、様々な事業承継のパターンに対応した情報をお届けします。事業の引き継ぎを検討している経営者、後継者候補の方々、M&Aを考えている企業にとって、実践的なガイドとなる内容です。

事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継やM&Aを契機として、経営革新等に取り組む中小企業を支援する制度です。正式には「事業承継・引継ぎ支援事業」として、経済産業省が実施しています。この制度の目的は、中小企業の貴重な経営資源の散逸を防ぎ、地域の雇用を守り、日本経済の持続的な発展を支えることにあります。

この補助金の特徴は、単に事業を引き継ぐだけでなく、承継を機に新しい取り組みを行う企業を支援する点にあります。後継者が新しいアイデアやノウハウを持ち込み、既存事業を発展させたり、新分野に進出したりする際の費用を補助します。また、M&Aの専門家に支払う手数料なども補助対象となるため、第三者承継を検討している企業にとっても活用しやすい制度となっています。

事業承継・引継ぎ補助金の類型と対象

事業承継・引継ぎ補助金には、大きく分けて3つの類型があり、それぞれ対象となる事業者や補助内容が異なります。自社の状況に最も適した類型を選択することが重要です。

経営革新事業

経営革新事業は、事業承継やM&Aを契機として、経営革新等に取り組む中小企業を支援する類型です。この類型は、さらに「創業支援型」「経営者交代型」「M&A型」の3つに分かれています。創業支援型は、廃業を予定している事業者から事業を引き継いで創業する場合が対象となります。経営者交代型は、親族内承継や従業員承継など、事業承継を契機に新しい取り組みを行う場合が対象です。M&A型は、M&Aによって事業を引き継ぎ、経営革新等に取り組む場合が対象となります。

補助上限額は、創業支援型とM&A型で最大800万円、経営者交代型で最大600万円です。補助率は、いずれも2分の1または3分の2となっています。対象となる経費は、設備投資費、店舗改装費、システム導入費、広告宣伝費、専門家活用費など、幅広い項目が認められています。例えば、後継者が新しい設備を導入して生産性を向上させたり、店舗をリニューアルして顧客層を拡大したり、ITシステムを導入して業務を効率化したりする取り組みが対象となります。

専門家活用事業

専門家活用事業は、M&Aによる事業承継・引継ぎを行う際に、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)、弁護士、公認会計士などの専門家に支払う手数料を補助する類型です。この類型は、「買い手支援型」と「売り手支援型」に分かれており、M&Aの買い手側も売り手側も申請できます。

補助上限額は、買い手支援型で最大800万円、売り手支援型で最大800万円です。補助率は、いずれも3分の2または2分の1となっています。対象となる経費は、M&A仲介会社への手数料、FA(ファイナンシャルアドバイザー)への報酬、デューデリジェンス費用、企業価値算定費用、法務・税務等の専門家への報酬などです。M&Aには専門的な知識が必要で、専門家への報酬も高額になりがちですが、この補助金を活用することで、費用負担を軽減しながら適切な支援を受けることができます。

廃業・再チャレンジ事業

廃業・再チャレンジ事業は、事業承継やM&Aに伴い、既存事業の一部を廃業する場合や、M&Aが不成立となり廃業する場合の費用を補助する類型です。事業承継は必ずしも全ての事業を引き継ぐわけではなく、不採算部門を整理して中核事業に集中することも重要な経営判断です。また、M&Aを検討したものの、条件が合わずに不成立となり、やむを得ず廃業する場合もあります。

補助上限額は最大150万円で、補助率は3分の2または2分の1です。対象となる経費は、廃業登記費用、在庫処分費用、設備処分費用、原状回復費用、リースの解約費用などです。この類型は、経営革新事業や専門家活用事業と併用することができ、例えば、M&Aで事業を引き継ぐ際に既存の不採算事業を廃業する場合、専門家活用事業とともに廃業・再チャレンジ事業にも申請できます。

事業承継・引継ぎ補助金の申請要件

事業承継・引継ぎ補助金を申請するには、いくつかの要件を満たす必要があります。類型によって要件が異なるため、詳しく見ていきましょう。

経営革新事業の申請要件

経営革新事業に申請するには、まず中小企業者であることが必要です。中小企業者の定義は業種によって異なり、製造業では資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業では資本金1億円以下または従業員100人以下、小売業では資本金5,000万円以下または従業員50人以下、サービス業では資本金5,000万円以下または従業員100人以下となっています。

次に、事業承継の要件として、申請時点において事業承継が行われていること、または補助事業期間内に事業承継が行われる見込みであることが必要です。創業支援型の場合は、廃業予定の事業者から事業を引き継いで創業することが要件となります。経営者交代型の場合は、代表者の交代が行われることが要件です。M&A型の場合は、株式譲渡、事業譲渡、合併などのM&Aが行われることが要件となります。

さらに、経営革新等の要件として、事業承継を契機に新しい取り組みを行うことが求められます。具体的には、新商品・新サービスの開発、新たな販路の開拓、生産性の向上、業態転換など、経営の革新につながる取り組みが対象となります。単に既存事業を継続するだけでは、この補助金の対象にはなりません。後継者が新しいアイデアや手法を持ち込み、事業を発展させる計画が必要です。

専門家活用事業の申請要件

専門家活用事業に申請するには、M&Aによる事業承継・引継ぎを行うことが前提となります。買い手支援型の場合は、M&Aによって事業を譲り受ける側が申請者となります。売り手支援型の場合は、M&Aによって事業を譲り渡す側が申請者となります。どちらの場合も、中小企業者であることが要件です。

また、専門家活用事業では、M&A支援機関登録制度に登録されたM&A仲介業者やFA(ファイナンシャルアドバイザー)を活用することが要件となっています。M&A支援機関登録制度は、中小企業庁が実施している制度で、一定の基準を満たしたM&A支援機関が登録されています。この制度は、質の高いM&A支援を確保し、中小企業が安心してM&Aに取り組める環境を整備することを目的としています。

廃業・再チャレンジ事業の申請要件

廃業・再チャレンジ事業は、経営革新事業または専門家活用事業と併用する形で申請します。単独での申請はできません。要件としては、事業承継やM&Aに伴い、既存事業の全部または一部を廃業すること、またはM&Aが不成立となり廃業することが必要です。

廃業の範囲は、法人の解散・清算だけでなく、個人事業の廃業、事業所の閉鎖、特定の事業部門の廃止なども含まれます。ただし、単に不要になった設備を処分するだけでは対象になりません。事業承継やM&Aの一環として、戦略的に廃業を選択する場合が対象となります。

事業承継・引継ぎ補助金の申請手順

事業承継・引継ぎ補助金の申請は、いくつかのステップを踏んで進める必要があります。計画的に準備を進めることが、採択への近道となります。

事前準備:GビズIDの取得と専門家の選定

申請には電子申請システム「jGrants」を使用するため、GビズIDプライムアカウントの取得が必須です。取得には申請から承認まで通常2週間程度かかるため、早めに手続きを開始しましょう。個人事業主の場合は印鑑証明書、法人の場合は印鑑証明書または登記事項証明書が必要です。

次に、必要に応じて専門家を選定します。経営革新事業に申請する場合は、認定経営革新等支援機関のサポートを受けることが推奨されています。専門家活用事業に申請する場合は、M&A支援機関登録制度に登録されたM&A仲介業者やFAを選ぶ必要があります。複数の専門家に相談し、自社の状況に最も適した支援を提供できるパートナーを選びましょう。

事業承継計画の策定

申請において最も重要なのが、事業承継計画の策定です。事業承継計画には、現状分析、承継の背景と目的、承継の方法、承継後の経営革新の内容、実施体制、資金計画、収支計画などを記載します。単に「後継者に事業を引き継ぐ」というだけでなく、承継を機にどのように事業を発展させるかを具体的に示すことが重要です。

現状分析では、自社の強みと弱み、事業環境、経営課題などを客観的に評価します。承継の背景では、なぜ今このタイミングで承継を行うのか、後継者はなぜ選ばれたのかを説明します。経営革新の内容では、後継者が具体的にどのような新しい取り組みを行うのか、それによってどのような効果が期待できるのかを詳細に記載します。

例えば、「後継者は大手企業でマーケティングの経験を積んでおり、そのノウハウを活かして新たな販路を開拓する」「デジタル技術に精通した後継者が、業務のIT化を推進して生産性を30%向上させる」といった具体的な計画が求められます。数値目標を設定し、その達成方法を明確に示すことで、計画の信頼性が高まります。

必要書類の準備と申請

事業承継計画が完成したら、その他の必要書類を準備します。経営革新事業の場合、法人の履歴事項全部証明書、直近の決算書、事業承継を証明する書類(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、代表者変更の登記など)が必要です。専門家活用事業の場合は、M&A仲介契約書やFA契約書、専門家の見積書なども必要になります。

全ての書類が揃ったら、電子申請システム「jGrants」から申請を行います。システムでは、企業情報の入力、事業承継計画書のアップロード、添付書類のアップロードなどを行います。申請期限間際は混雑してシステムが不安定になることがあるため、余裕を持って申請することをお勧めします。

採択後の手続きと事業実施

採択通知を受け取ったら、交付申請を行います。交付決定を受けた後、初めて補助対象となる経費の支出ができます。交付決定前に契約や発注を行うと補助対象外となるため、注意が必要です。特に、設備投資や店舗改装など、大きな支出を伴う場合は、必ず交付決定後に契約することを徹底しましょう。

事業実施期間中は、計画に沿って設備導入や店舗改装、システム開発などを進めます。全ての支出については、契約書、納品書、請求書、領収書、銀行振込記録などの証拠書類を確実に保管してください。特に、専門家活用事業の場合、M&A仲介手数料などの高額な支出については、支払いの証拠を明確に残すことが重要です。

事業完了後は、実績報告書を提出します。実績報告では、実際に行った事業内容、支出した経費の詳細、証拠書類などを提出します。報告内容が審査され、承認されると補助金が交付されます。補助金は後払いのため、事業期間中は全額を自己資金や借入金で賄う必要があります。

採択率を高めるための重要ポイント

事業承継・引継ぎ補助金の採択率を高めるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。審査では、事業承継の必要性、経営革新の内容、実現可能性などが総合的に評価されます。

事業承継の必然性と緊急性

審査において重視されるのは、なぜ今、事業承継を行う必要があるのかという点です。単に「経営者が高齢だから」というだけでなく、事業環境の変化や後継者の準備状況なども含めて、承継のタイミングが適切であることを説明する必要があります。例えば、「主要顧客からデジタル化への対応を求められているが、現経営者にはその知識がなく、IT企業での経験を持つ後継者への承継が急務である」といった具体的な理由を示すことが効果的です。

後継者の能力と意欲

後継者が事業を引き継ぐにふさわしい能力と意欲を持っていることを示すことも重要です。後継者の経歴、保有する資格やスキル、これまでの実績などを具体的に記載しましょう。特に、後継者が持つ新しいノウハウや人脈が、既存事業の発展にどのように貢献するかを明確に示すことが求められます。

また、後継者の事業への理解度や準備状況も評価されます。すでに一定期間、事業に関わっており、業務内容や取引先、従業員との関係を理解している場合は、その点を強調しましょう。一方、外部から後継者を迎える場合は、どのように事業を理解し、スムーズに引き継ぐかの計画を示すことが重要です。

具体的で実現可能な経営革新計画

経営革新事業に申請する場合、承継後に行う新しい取り組みの内容が審査の重要なポイントとなります。抽象的な計画ではなく、具体的で実現可能な計画を示すことが必要です。例えば、「新商品を開発する」というだけでなく、「どのような商品を、誰をターゲットに、どのように販売するのか」まで詳細に記載します。

また、経営革新によって期待される効果を数値で示すことも重要です。売上増加率、利益率の改善、生産性の向上、新規顧客数など、定量的な目標を設定し、その達成方法を説明します。根拠のない楽観的な数字ではなく、市場調査や過去のデータに基づいた現実的な目標を設定しましょう。

従業員や取引先への配慮

事業承継は、経営者だけの問題ではありません。従業員や取引先にも大きな影響を与えます。承継に伴い、従業員の雇用がどのように守られるのか、取引先との関係がどのように維持されるのかを示すことも、審査において評価されるポイントです。特に、地域の雇用を守ることは、補助金制度の重要な目的の一つです。

従業員への説明や合意形成のプロセス、取引先への事前説明など、ステークホルダーへの配慮を具体的に記載しましょう。また、承継後も従業員のモチベーションを維持し、取引先との信頼関係を継続するための施策を示すことが重要です。

事業承継・引継ぎ補助金の活用事例

実際に事業承継・引継ぎ補助金を活用して、円滑な事業承継と事業発展を実現した企業の事例をご紹介します。これらの事例から、効果的な活用方法のヒントを得ることができます。

親族内承継による製造業の事業革新事例

創業50年の金属加工業を営むA社では、70歳の創業者から長男への事業承継が行われました。長男は大手メーカーで生産管理の経験を積んでおり、父親の会社に戻って5年間、現場で修行を重ねてきました。事業承継・引継ぎ補助金の経営革新事業(経営者交代型)に採択され、600万円の補助を受けました。

後継者である長男は、補助金を活用して最新のNC加工機とCAD/CAMシステムを導入しました。従来は熟練工の手作業に頼っていた部分を自動化することで、生産性が40%向上し、納期も大幅に短縮されました。また、3Dデータを活用した提案営業を開始し、新規顧客の開拓にも成功しました。承継から2年で、売上は20%増加し、利益率も改善しました。創業者の技術を継承しながら、新しい技術を取り入れることで、事業の競争力を大きく高めることができた事例です。

M&Aによる飲食業の事業拡大事例

都内で複数の飲食店を経営するB社は、後継者不在で廃業を検討していた老舗和食店をM&Aで買収しました。B社は、事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用事業(買い手支援型)と経営革新事業(M&A型)の両方に採択され、合計で1,400万円の補助を受けました。

専門家活用事業の補助金は、M&A仲介会社への手数料、デューデリジェンス費用、弁護士・税理士への報酬などに充当しました。M&Aには専門的な知識が必要で、これらの費用だけで500万円以上かかりましたが、補助金により負担を大幅に軽減できました。経営革新事業の補助金は、買収した店舗のリニューアル、新メニューの開発、予約システムの導入などに活用しました。

B社は、老舗和食店の伝統的な料理の技術を継承しながら、若い世代にも受け入れられるモダンな雰囲気に店舗を改装しました。また、オンライン予約システムやSNSでの情報発信など、デジタルマーケティングも強化しました。買収から1年で、売上は買収前の1.5倍に増加し、廃業の危機にあった老舗の技術と雇用を守ることに成功しました。

従業員承継による小売業の再生事例

地方都市で書店を経営していたC社の経営者は、高齢のため引退を考えていましたが、親族に後継者がいませんでした。そこで、20年間勤務してきた従業員に事業を承継することを決断しました。従業員は、事業承継・引継ぎ補助金の経営革新事業(経営者交代型)に採択され、500万円の補助を受けました。

新経営者となった元従業員は、補助金を活用して店舗のリニューアルとカフェスペースの併設を実現しました。従来の書籍販売だけでなく、読書会やトークイベントなどを開催できる空間を作り、地域のコミュニティ拠点としての役割も果たすようになりました。また、ECサイトも立ち上げ、地方発送にも対応するようになりました。

新しい取り組みにより、若い世代の来店が増加し、売上も徐々に回復しました。地域に愛される書店を守りながら、新しい価値を提供することで、事業の持続可能性を高めることができた事例です。従業員承継は、事業のノウハウや顧客との関係を維持しやすいというメリットがあり、この事例でもそれが活かされました。

事業承継を成功させるための準備と心構え

事業承継・引継ぎ補助金を活用することは、円滑な事業承継の一助となりますが、補助金だけで承継が成功するわけではありません。事業承継を成功させるためには、長期的な準備と適切な心構えが必要です。

早期からの計画立案

事業承継は、一朝一夕にできるものではありません。後継者の育成、従業員や取引先への説明、株式や資産の移転など、様々なプロセスに時間がかかります。一般的に、事業承継には5年から10年程度の準備期間が必要だと言われています。経営者が元気なうちから計画を立て、段階的に進めることが重要です。

特に、後継者の育成には時間がかかります。経営者としての判断力や、取引先・従業員との信頼関係は、一朝一夕に身につくものではありません。後継者候補を早期に決定し、実務経験を積ませながら、徐々に権限を委譲していくことが理想的です。

専門家の活用

事業承継には、法務、税務、財務など、専門的な知識が必要です。特に、株式の評価や相続税対策、契約書の作成などは、専門家のサポートなしには適切に行うことが困難です。税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士など、各分野の専門家に早い段階から相談し、チームとして承継を進めることをお勧めします。

また、M&Aによる第三者承継を検討する場合は、M&A仲介会社やFAの活用が不可欠です。適切な買い手の探索、企業価値の算定、交渉のサポートなど、専門家の知見が成功の鍵を握ります。事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用事業を利用すれば、これらの費用負担を軽減できます。

コミュニケーションの重要性

事業承継は、経営者と後継者だけの問題ではありません。従業員、取引先、金融機関など、多くのステークホルダーが関わります。これらの関係者に対して、適切なタイミングで適切な情報を提供し、理解と協力を得ることが重要です。

特に、従業員への説明は慎重に行う必要があります。承継の計画が明らかになると、従業員は将来への不安を感じることがあります。雇用が守られること、処遇が不利にならないこと、会社の方向性などを丁寧に説明し、従業員の不安を解消することが重要です。また、取引先に対しても、承継後も変わらぬ取引をお願いする旨を事前に伝えておくことで、スムーズな承継が可能になります。

事業承継における課題とその対応策

事業承継には様々な課題が伴います。これらの課題を事前に認識し、適切な対応策を講じることが、成功への道筋となります。

後継者不在の問題

中小企業の多くが直面している最大の課題が、後継者不在です。親族に後継者候補がいない、従業員に承継を引き受ける意思や能力がないといった状況では、第三者への承継(M&A)を検討する必要があります。M&Aと聞くと、大企業の話と思われがちですが、近年では中小企業のM&Aも活発化しています。

M&Aの相手先を探すには、M&A仲介会社の活用が効果的です。また、事業引継ぎ支援センター(各都道府県に設置)では、無料でマッチング支援を行っています。早めに相談を開始し、複数の選択肢を検討することが重要です。事業承継・引継ぎ補助金を活用すれば、M&Aにかかる費用負担を軽減できます。

株式や資産の承継に伴う税負担

事業承継では、株式や事業用資産を後継者に移転する必要がありますが、これには贈与税や相続税が課される可能性があります。特に、業績が良い企業ほど株式の評価額が高くなり、税負担も大きくなります。この問題に対しては、事業承継税制の活用が有効です。

事業承継税制は、一定の要件を満たせば、贈与税や相続税の納税を猶予・免除する制度です。この制度を活用することで、税負担を大幅に軽減しながら株式を承継できます。ただし、要件が複雑で、継続的な報告義務もあるため、税理士などの専門家のサポートを受けながら進めることが重要です。

経営理念や企業文化の継承

事業承継では、目に見える資産だけでなく、経営理念や企業文化といった無形の資産も継承する必要があります。これらは、企業の競争力の源泉であり、従業員のモチベーションや顧客との信頼関係の基盤となっています。しかし、無形の資産は、株式や設備のように簡単に移転できるものではありません。

経営理念や企業文化を継承するには、現経営者と後継者が十分な時間をかけて対話し、価値観を共有することが重要です。また、後継者が一定期間、実務を通じて企業文化を体験し、従業員や顧客との関係を築くことも必要です。急いで承継を進めるのではなく、時間をかけて丁寧に引き継ぐことが、長期的な成功につながります。

まとめ:事業承継・引継ぎ補助金を活用して次世代へつなぐ

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業の円滑な事業承継を支援する非常に有効な制度です。経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業という3つの類型があり、親族内承継、従業員承継、M&Aによる第三者承継など、様々な承継パターンに対応しています。最大で1,000万円を超える補助を受けられる可能性があり、承継に伴う費用負担を大幅に軽減できます。

ただし、補助金はあくまで事業承継を支援するツールであり、承継そのものを成功させるには、長期的な計画と準備が不可欠です。早期から計画を立て、専門家のサポートを受けながら、段階的に進めることが重要です。また、後継者の育成、従業員や取引先とのコミュニケーション、税務対策など、多面的な取り組みが求められます。

事業承継は、単に経営者が交代するだけでなく、企業が新たな成長段階に入る機会でもあります。後継者が新しいアイデアやノウハウを持ち込むことで、既存事業を発展させたり、新分野に進出したりすることができます。事業承継・引継ぎ補助金を活用して、承継を機に経営革新に取り組み、企業の競争力をさらに高めることが可能です。

日本の中小企業は、優れた技術やノウハウ、地域との深い結びつきなど、貴重な経営資源を持っています。これらを次世代に確実に引き継ぎ、さらに発展させることは、企業にとってだけでなく、地域経済や日本経済全体にとっても重要な意義を持ちます。事業承継・引継ぎ補助金を上手に活用して、円滑な事業承継を実現し、企業の持続的な成長を目指しましょう。補助金の公募は年に複数回実施されるため、早めに情報収集を始め、計画的に準備を進めることをお勧めします。

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