【2025年最新版】ホテル・旅館が使える補助金・助成金一覧!申請のポイントや注意点も徹底解説
インバウンド需要の急回復や国内旅行の活発化により、ホテル・旅館業界には大きなビジネスチャンスが訪れています。しかしその一方で、深刻な人手不足、エネルギー価格や原材料費の高騰といった課題が、多くの事業者の経営を圧迫しているのも事実です。このような厳しい経営環境を乗り越え、持続的な成長を遂げるためには、戦略的な設備投資や業務改革が不可欠です。
そこで大きな力となるのが、国や地方自治体が提供する「補助金」や「助成金」です。これらを活用することで、財務的な負担を大幅に軽減しながら、DX化の推進、生産性の向上、省エネルギー対策、従業員の労働環境改善などを実現できます。
この記事では、2025年10月現在、ホテル・旅館業界の事業者が活用できる主要な補助金・助成金を目的別に整理し、それぞれの概要や活用例を詳しく解説します。さらに、採択を勝ち取るための事業計画書の書き方から、申請の具体的な流れ、注意すべきポイントまで、補助金活用に必要なノウハウを網羅的にご紹介します。自社の課題解決と未来への投資のために、どの制度が使えるのか、ぜひ最後までご覧ください。
なぜ今、ホテル・旅館業界で補助金の活用が重要なのか?
コロナ禍という未曾有の危機を乗り越え、観光業界は回復基調にあります。特にインバウンド観光客の増加は目覚ましく、多くのホテルや旅館で客室稼働率が向上しています。しかし、この好機を最大限に活かすためには、いくつかの構造的な課題を解決しなければなりません。
ホテル・旅館業界が直面する主な課題:
- 深刻な人手不足: 観光需要の回復スピードに人材の確保が追いつかず、フロント、客室清掃、レストランなど、あらゆる部門で人手が足りていない状況です。限られた人員で質の高いサービスを維持するためには、業務の効率化が急務です。
- コストの増大: 電気・ガスなどのエネルギー価格の高騰は、特に大規模な施設を持つホテル・旅館にとって大きな負担となります。また、食材費やリネン類の仕入れ価格も上昇しており、利益を圧迫しています。
- 多様化する顧客ニーズへの対応: 従来の団体旅行から個人旅行(FIT)へと需要がシフトし、ワーケーション、サステナブルツーリズム、ウェルネスツーリズムなど、顧客の求める価値観も多様化しています。これらに対応した新たなサービスや付加価値の提供が求められています。
こうした課題を解決し、競合施設との差別化を図るための投資は必要不可欠ですが、自己資金だけでは限界があります。そこで補助金・助成金を活用することには、以下のような大きなメリットがあります。
補助金活用のメリット:
- 財務負担の軽減: 新しい予約管理システム(PMS)の導入、省エネ性能の高い空調設備への更新、客室の改装など、多額の初期投資が必要な取り組みも、補助金を活用すれば自己負担を抑えて実行できます。
- 生産性の飛躍的向上: ITツールや自動化設備を導入することで、予約管理、会計、顧客情報管理といったバックオフィス業務や、清掃、配膳などの現場業務を効率化できます。これにより、従業員はより付加価値の高い「おもてなし」に集中できるようになります。
- 競争力の強化: 補助金を活用して、他にはないユニークな体験(例:プライベートサウナの新設、地域の文化を体験できるアクティビティの開発)を提供したり、施設の高付加価値化を図ったりすることで、価格競争から脱却し、収益性を高めることができます。
- 持続可能な経営基盤の構築: 省エネ設備の導入は、光熱費の削減に直結するだけでなく、環境に配慮した施設として企業のブランドイメージ向上にも繋がります。また、従業員の待遇改善やスキルアップに助成金を活用することは、人材の定着とサービス品質の向上という好循環を生み出します。
補助金は、単なる資金援助ではありません。未来の事業を創造し、経営基盤を強化するための戦略的なツールなのです。
【目的別】ホテル・旅館が使える主要な補助金・助成金
ホテル・旅館が活用できる補助金・助成金は多岐にわたります。ここでは、「生産性向上・DX化」「人手不足対策・人材育成」「設備投資・改修」「インバウンド対応・高付加価値化」という4つの目的別に、代表的な制度を紹介します。
1. 生産性向上・DX化を支援する補助金
人手不足が深刻化する中、ITの活用による業務効率化は待ったなしの課題です。
IT導入補助金
- 概要: 中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化・売上アップをサポートする制度です。ホテル・旅館業界でも非常に活用しやすい補助金の一つです。予約管理システム、会計ソフト、決済システム、顧客管理ツールなどのソフトウェア購入費やクラウド利用料、導入関連費用などが対象となります。
-
補助率・補助上限額(例):
- 通常枠: 補助率
1/2
以内、補助上限額 150万円未満など - インボイス枠(インボイス対応類型): 補助率
3/4
以内、補助上限額 350万円など(会計・受発注・決済機能を持つITツールが対象)
- 通常枠: 補助率
-
ホテルでの活用例:
- 予約・客室管理の効率化: サイトコントローラーと連携可能なPMS(宿泊管理システム)を導入し、複数のOTAからの予約を一元管理。ダブルブッキングを防ぎ、手入力の作業を大幅に削減する。
- レストラン業務の効率化: タブレット端末で注文を受けるモバイルオーダーシステムや、クラウド型のPOSレジシステムを導入し、注文から会計までの流れをスムーズにする。
- バックオフィス業務の自動化: クラウド会計ソフトを導入し、経理業務を効率化。インボイス制度への対応も同時に進める。
事業再構築補助金
- 概要: ポストコロナ・ウィズコロナ時代を見据え、中小企業が新分野展開、業態転換、事業再編など、思い切った事業再構築に挑戦する際の経費を支援する大型の補助金です。建物の建設・改修費、機械装置費、システム構築費など、大規模な投資が補助対象となるのが特徴です。
-
補助率・補助上限額(例): 枠(成長枠、グリーン成長枠など)によって大きく異なり、補助率は
1/2 ~ 2/3
、補助上限額は数千万円から1億円を超える場合もあります。 -
ホテルでの活用例:
- ワーケーション施設への転換: 一部の客室や宴会場を改装し、高速Wi-Fi、個室ブース、会議室などを備えた長期滞在型ワーケーション施設を新たに開設する。
- 高付加価値な体験提供: 敷地内にグランピング施設やドッグランを新設し、新たな顧客層を開拓する。また、使われていなかった大浴場を全面改修し、複数のプライベートサウナ付き貸切風呂としてリニューアルする。
- 非宿泊事業への進出: ホテルの厨房施設を活用し、地域の特産品を使った高級冷凍食品を開発・製造し、ECサイトで全国に販売する新規事業を立ち上げる。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
- 概要: 革新的なサービス開発や生産プロセスの改善に繋がる設備投資などを支援する補助金です。「革新性」が求められるため、単なる設備の買い替えではなく、新しい顧客体験の創出や、画期的な業務効率化に繋がる取り組みが対象となります。
-
補助率・補助上限額(例): 補助率
1/2 ~ 2/3
、補助上限額 750万円~数千万円(申請枠により異なる) -
ホテルでの活用例:
- AIを活用したレベニューマネジメントシステムを独自に開発・導入し、需要を予測して客室単価を自動で最適化する。
- VR(仮想現実)技術を導入し、宿泊前に客室や館内施設をリアルに体験できるオンラインツアーコンテンツを開発・提供する。
- 清掃ロボットと管理システムを連携させ、チェックアウト情報から自動で清掃ルートを最適化・実行するシステムを構築する。
2. 人手不足対策・人材育成を支援する助成金
補助金が設備投資を主に対象とするのに対し、助成金は雇用の安定や人材育成に関する取り組みを支援するものです。要件を満たせば原則として受給できるのが特徴です。
キャリアアップ助成金
- 概要: アルバイトやパートタイマーといった非正規雇用の従業員のキャリアアップを促進し、処遇を改善する事業主を支援する制度です。非正規雇用の従業員を正社員に転換したり、賃金規定を改定して昇給させたりした場合に助成金が支給されます。
- 助成額(例): 正社員化コースでは、有期雇用労働者を正規雇用に転換した場合、1人あたり数十万円が支給されます。
-
ホテルでの活用例:
- 長年パートとして勤務している優秀なレストランスタッフやフロントスタッフを正社員として登用し、人材の定着を図る。
- 全パートタイマーの基本給を一律で引き上げる賃金規定を新たに設け、適用する。
人材開発支援助成金
- 概要: 従業員の専門的な知識や技能の習得を目的とした職業訓練(OJT、Off-JT)を実施した際に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
- 助成内容(例): 訓練にかかった経費(受講料など)の一部(経費助成)と、訓練期間中の賃金の一部(賃金助成)が支給されます。
-
ホテルでの活用例:
- 語学力向上: インバウンド客に対応するため、従業員に英会話や中国語の研修を受講させる。
- マネジメントスキル強化: 次世代のリーダーを育成するため、支配人候補や部門長にマネジメント研修やリーダーシップ研修を実施する。
- DX推進: 全従業員を対象に、新しく導入する予約管理システムや情報共有ツールの操作研修を実施する。
3. 設備投資・改修を支援する補助金
施設の魅力を高め、顧客満足度を向上させるための改修や、コスト削減に繋がる設備投資を支援する制度です。
小規模事業者持続化補助金
- 概要: 従業員数の少ない小規模な事業者(宿泊業の場合は常時使用する従業員が20人以下)が、経営計画に基づいて実施する販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する制度です。ウェブサイトの改修、チラシ作成、店舗改装など、幅広い経費が対象となります。
-
補助率・補助上限額(例): 補助率
2/3
、補助上限額 50万円~200万円(申請枠により異なる) -
ホテルでの活用例:
- 公式ウェブサイトをリニューアルし、スマートフォン表示への最適化、多言語対応、オンラインカード決済機能の導入を行う。
- 地域の特産品を使った新しい朝食メニューを開発し、その魅力を伝えるためのパンフレットを作成する。
- 客室の一部を改装し、ワーケーション需要に応えるための大型デスクや高性能チェアを設置する。
省エネルギー投資促進支援事業費補助金
- 概要: 事業者が所有する施設の省エネルギー化を促進するため、エネルギー効率の高い設備への更新費用の一部を補助する制度です。高効率な空調設備、業務用給湯器、高性能ボイラ、LED照明器具などが対象です。
-
補助率(例): 補助率
1/3
以内など(設備の種類や性能により異なる) -
ホテルでの活用例:
- 館内すべての照明(客室、ロビー、廊下など)をLED照明に交換する。
- 老朽化した空調設備を、最新の高効率な機種に一斉に入れ替える。
- 大浴場や厨房で使用している給湯ボイラーを、エネルギー消費の少ないヒートポンプ式給湯器に更新する。
4. インバウンド対応・高付加価値化を支援する補助金
訪日外国人観光客の満足度向上や、あらゆる人が快適に過ごせるユニバーサルツーリズムの実現に向けた取り組みを支援する制度です。
インバウンド安全・安心対策推進事業(観光庁)
- 概要: 訪日外国人観光客が、言語の壁や文化・習慣の違いを感じることなく、安全・安心に旅行を楽しめる環境を整備するための取り組みを支援します。施設の案内表示の多言語化、キャッシュレス決済端末の導入、トイレの洋式化などが対象となります。
-
補助率・補助上限額(例): 補助率
1/2
以内 -
ホテルでの活用例:
- 館内の案内表示(フロアマップ、非常口案内、メニューなど)を日本語、英語、中国語、韓国語の4か国語で表記する。
- フロントに各種クレジットカードやQRコード決済に対応したマルチ決済端末を導入する。
- 災害発生時に、避難情報や交通情報を多言語で一斉配信できるシステムを導入する。
補助金申請の基本的な流れと成功のポイント
魅力的な補助金を見つけても、申請手続きを正しく行い、審査を通過しなければ補助金を受け取ることはできません。ここでは、申請から受給までの一般的な流れと、採択を勝ち取るための重要なポイントを解説します。
STEP 1: 情報収集と目的の明確化
まずは、自社の経営課題は何か、それを解決するために何をしたいのかを明確にすることがスタートです。「人手不足を解消したい」「光熱費を削減したい」といった目的を具体化し、それに合致する補助金を探します。
STEP 2: 公募要領の熟読と準備
活用したい補助金が見つかったら、公式サイトから「公募要領」をダウンロードし、隅々まで熟読します。公募要領には、補助金の目的、対象者、対象経費、申請期間など、審査におけるすべてのルールが記載されています。
STEP 3: 事業計画書の作成【最重要】
補助金の採択・不採択を分ける最も重要な書類が「事業計画書」です。審査員は、この計画書を見て、あなたの事業が補助金を投じるに値するかどうかを判断します。客観的なデータに基づいた、説得力のあるストーリーを描くことが重要です。
審査員に響く事業計画書の構成要素:
- 事業の背景と課題(現状分析): 自社の現状(強み・弱み)と市場環境(機会・脅威)を客観的に分析し、解決すべき経営課題を具体的に示します。
- 事業の目的と内容(解決策): 課題を解決するために、補助金を使って「何を」「どのように」実施するのかを具体的に記述します。数値目標を入れると説得力が増します。
- 事業の実施体制とスケジュール: 責任者や実施体制を明確にし、具体的なスケジュール(ガントチャートなど)を作成します。
- 資金計画: 総事業費、補助金額、自己資金額の内訳を明確に示し、計画の実現可能性をアピールします。
- 補助事業の効果と将来性: 事業実施によって期待できる効果(生産性向上、収益改善など)を具体的に示し、事業の継続性や発展性を描きます。
STEP 4: 電子申請
近年、多くの補助金申請は「Jグランツ」という電子申請システムを通じて行われます。利用には「GビズIDプライムアカウント」の取得が必須で、発行に時間がかかるため早めに準備しましょう。
STEP 5: 採択・交付決定
採択通知の後、正式な「交付決定通知書」が届いて初めて、事業(契約・発注など)を開始できます。交付決定前の発注は補助対象外となるため、絶対にフライングしないようにしましょう。
STEP 6: 事業実施と実績報告
計画書に沿って事業を実施し、期間中のすべての発注・支払いに関する証拠書類(見積書、契約書、請求書、領収書など)を厳重に保管します。事業期間終了後、期限内に「実績報告書」と証拠書類を提出します。
STEP 7: 補助金の受給
実績報告書に基づき、事務局による確定検査が行われ、内容が認められると補助金額が確定し、指定口座に振り込まれます。
補助金申請における注意点
- 補助金は原則「後払い」: 事業期間中はすべての費用を自社で立て替える必要があります。資金繰り計画や、必要に応じて金融機関からの「つなぎ融資」を検討しましょう。
- 申請すれば必ず採択されるわけではない: 人気の補助金は競争率が高いため、不採択だった場合は計画をブラッシュアップして再挑戦する姿勢が大切です。
- 対象経費のルールが細かい: パソコンなど汎用性が高いと判断されるものは対象外となるケースが多いです。公募要領をよく確認しましょう。
- スケジュール管理の徹底: 申請締切、事業実施期間、実績報告期限など、すべての期限は厳守です。
- 不正受給は絶対にNG: 虚偽の申請や目的外利用は犯罪です。補助金の返還だけでなく、刑事罰に問われる可能性もあります。
専門家の活用も検討しよう
質の高い事業計画書の作成や煩雑な手続きに不安がある場合は、補助金申請の専門家の力を借りるのも有効な選択肢です。中小企業診断士、行政書士、認定経営革新等支援機関などに相談することで、採択の可能性を高め、経営者は本業に集中できます。
専門家を選ぶ際は、ホテル・旅館業界の支援実績や、申請したい補助金の採択実績、料金体系の明確さなどを確認すると良いでしょう。
まとめ
ホテル・旅館業界は、人手不足やコスト高騰といった課題に直面しながらも、回復する観光需要を捉えるという大きなチャンスの中にいます。この好機を活かし、持続的な成長を遂げるために、補助金・助成金の活用は極めて有効な経営戦略です。
IT導入によるDX化、省エネ設備への更新、新たな顧客体験の創出、従業員の待遇改善など、自社が抱える課題と目指す未来像を明確にし、それに合った制度を見つけることが第一歩です。
採択を勝ち取る鍵は、説得力のある「事業計画書」にあります。自社の現状を客観的に分析し、補助金を使ってどのように課題を解決し、どのような未来を創造するのか、熱意と具体性をもって伝えましょう。申請手続きは複雑ですが、本記事で解説した流れとポイントを押さえ、必要であれば専門家の力も借りながら、ぜひ挑戦してみてください。
補助金は、あなたのホテルの未来を切り拓くための強力な追い風となるはずです。